「本草学」という言葉を聞いたことはあっても、どのような学問なのか詳しく知っている方は少ないかもしれません。
本草学は、本草学とは、中国で発展した生薬を研究し、分類・記録する学問で、現在の漢方医学や生薬学にも大きな影響を与えています。また、植物だけでなく、動物や鉱物まで薬物として扱う点も特徴の一つです。
この記事では、本草学の基本的な意味や薬草学との違い、歴史、そして本草学で扱われる代表的な薬物について、初心者にもわかりやすく解説します。
目次
・【1】本草学とは?
・【2】本草学の歴史
・【3】本草学では薬物をどのように分類する?
※植物療法には世界各地でさまざまな体系があります。
本記事でご紹介する「本草学」は、その中でも中国で発展した植物療法の一つです。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 薬草学 | 世界各地の薬用植物を幅広く研究・利用する学問・体系 |
| 本草学 | 中国で発展した、生薬を体系的にまとめた伝統的な薬物学 |
| アーユルヴェーダ薬草学 | インド伝統医学に基づき、体質や植物の性質を考慮して薬草を活用する植物療法 |
| 和漢薬 | 日本で発展した漢方・民間薬などの薬草利用文化 |
【1】本草学とは?
本草学とは、中国で発展した生薬を体系的に研究・記録する学問です。
「本草」とは、もともと薬として用いられる植物を意味していましたが、時代とともに植物だけでなく、動物や鉱物を含めた薬物全体を指す言葉になりました。
本草学では、
- 生薬の名前
- 産地
- 特徴
- 採取時期
- 加工方法(修治)
- 保存方法
- 利用方法
- 性質(寒・熱・温・涼など)
などを整理し、書物として後世へ伝えてきました。
単に薬草を集める学問ではなく、自然界の薬物を分類し、知識として体系化することを目的としていた点が、本草学の大きな特徴です。
そのため、本草学は医学だけでなく、植物・動物・鉱物を観察・記録する自然史(博物学)的な側面も持っていました。
こうして蓄積された知識は、現在の漢方医学や生薬学の基礎となり、漢方薬の生薬分類や品質管理にも受け継がれています。また、『神農本草経』や『本草綱目』は、医学書であると同時に、当時の自然を記録した貴重な資料としても高く評価されています。
<1-1>本草学と薬草学の違い
どちらも植物を扱いますが、目的には違いがあります。
| 項目 | 薬草学 | 本草学 |
|---|---|---|
| 対象 | 薬用植物 | 生薬(植物・動物・鉱物) |
| 地域 | 世界各地 | 中国を中心に発展 |
| 目的 | 植物を理解し活用する | 薬物を分類・体系化する |
| 発展 | 植物学・ハーバリズムなど | 中医学・漢方医学 |
薬草学が植物そのものを研究・利用する学問であるのに対し、本草学は薬物全体を整理し、医療に役立つ知識として体系化する学問として発展しました。
<1-2>本草学で扱われる薬物の例
本草学では、植物だけでなく、動物や鉱物も薬物(生薬)として分類・記録されてきました。
- 植物:甘草(カンゾウ)や人参(ニンジン)、桂皮(ケイヒ)など、現在の漢方薬にも広く用いられる生薬です。
- 動物:牡蛎(カキの殻)や鹿茸(シカの幼角)、阿膠(ロバの皮から作られる生薬)なども、古くから薬物として利用されてきました。
- 鉱物:石膏(天然の硫酸カルシウム鉱物)や滑石(タルク)などは、植物や動物とは異なる鉱物性の生薬として本草書に記録されています。
このように、本草学は植物だけを研究する学問ではなく、自然界に存在するさまざまな薬物を分類・整理し、その知識を後世へ伝える学問として発展しました。
【2】本草学の歴史
本草学の始まりとして知られるのが、後漢時代頃にまとめられた『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』です。
伝説上の帝王・神農が著したとされていますが、実際には当時までに受け継がれてきた知識をまとめたものと考えられています。
この本には365種類の生薬が収録され、
- 上品(養生)
- 中品(体調管理)
- 下品(治療)
という分類も行われました。
<2-1>『本草綱目』が生んだ大百科
16世紀、明の時代になると、医師・李時珍(りじちん)が約30年をかけて『本草綱目』を完成させます。
収録された薬物は約1,900種類。
植物だけでなく、動物・鉱物も含めて詳細に整理され、
- 名前
- 産地
- 形態
- 加工方法
- 利用法
などが記録されました。
『本草綱目』は中国だけでなく、日本や朝鮮半島にも伝わり、東アジアの薬物学へ大きな影響を与えています。
また、本草書には薬効だけでなく、生き物の特徴や産地、見分け方、採集方法なども詳しく記されており、当時の自然界をまとめた百科事典のような役割も果たしていました。そのため、『本草綱目』は医学書であると同時に、自然史(博物学)の貴重な資料としても高く評価されています。
<2-2>日本へ伝わった本草学
中国の本草学は奈良時代から平安時代にかけて日本へ伝わりました。
日本では、その知識をもとに国内の動植物や鉱物も調査され、江戸時代には貝原益軒や小野蘭山などによって、日本独自の本草学が発展します。
この流れは、後に和漢薬や日本の民間薬文化へと受け継がれていきました。
※詳しくは「和漢薬・民間薬」の記事をご覧ください。
【3】本草学では薬物をどのように分類する?
本草学では、生薬を植物・動物・鉱物といった種類だけでなく、体への働き方によっても分類します。こうした考え方は、現在の漢方医学にも受け継がれています。
<3-1>四気(しき)
生薬が体を温めるか、冷やすかを表す性質です。
- 寒:体の熱を冷ます
- 涼:やや体を冷ます
- 温:体を温める
- 熱:強く体を温める
<3-2>五味(ごみ)
生薬の味だけでなく、働きの特徴を表します。
- 酸:引き締める
- 苦:熱を取り除く
- 甘:補い、緩める
- 辛:巡らせる
- 鹹(かん):柔らかくする
※実際の味と一致しない場合もあります。
<3-3>帰経(きけい)
どの臓腑や経絡に作用しやすいかを示す考え方です。
例えば、肺に働きやすい生薬、肝に働きやすい生薬などに分類されます。
<3-4>升降浮沈(しょうこうふちん)
生薬が体の中でどのような方向に働くかを表す考え方です。
- 升(しょう):上へ働く
- 降(こう):下へ働く
- 浮(ふ):体の表面へ働く
- 沈(ちん):体の深部へ働く
例えば、発汗を促す生薬は「浮」、便通を促す生薬は「降」の性質を持つと考えられます。
まとめ
本草学は、植物だけでなく動物や鉱物も含めた薬物を研究し、その性質や利用方法を記録してきた学問です。
『神農本草経』や『本草綱目』に代表される本草書には、薬効だけでなく、産地や特徴、加工方法など幅広い情報がまとめられ、当時の自然を知る貴重な資料としても受け継がれてきました。
また、四気・五味・帰経・升降浮沈といった独自の考え方によって、生薬の性質や働きを捉えたことも、本草学の大きな特徴です。
本草学は、単なる昔の薬の記録ではなく、自然界の薬物を観察し、分類し、知識として後世へ伝えるという考え方を築いた学問でした。その知恵は、現在の漢方医学や生薬研究にも受け継がれています。
