伝統医療・自然療法伝統が育んだ健康の知恵

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インフューズドオイル(浸出油)とは? ― 花やハーブを植物油に漬け込む植物療法

自然療法・環境療法

植物は、煎じて飲むだけでなく、香りを楽しむだけでもありません。

世界各地では古くから、花やハーブ、生薬を植物油に漬け込み、その恵みを肌や髪、マッサージなどに生かす知恵が受け継がれてきました。

このような「インフューズドオイル(浸出油)」は、植物療法の中でも古い歴史を持つ利用法の一つです。本記事では、インフューズドオイルの特徴や精油との違い、世界各地の代表的な植物油療法について紹介します。

目次

・【1】インフューズドオイルとは?
・【2】世界に受け継がれてきたインフューズドオイルの歴史
・【3】世界の代表的なインフューズドオイル

【1】インフューズドオイルとは? ― 花やハーブを植物油に漬け込む植物療法

インフューズドオイル(Infused Oil)とは、花や葉、根などの植物を植物油に漬け込み、その成分や色素、香りをゆっくりと抽出したオイルのことです。

日本では「浸出油(しんしゅつゆ)」や「ハーブオイル」と呼ばれることもあります。

オリーブオイルやホホバオイル、スイートアーモンドオイルなどの植物油にハーブを浸し、数週間から数か月かけて成分を移して作られます。

世界各地では古くから、

などに利用され、人々の暮らしに根付いてきました。

<1-1> 植物療法の中での位置づけ

インフューズドオイルは、植物療法の一つとして紹介されることもありますが、厳密には植物を利用するための「抽出・利用方法」の一つと考えられています。

同じ植物でも、利用方法によって全く異なる植物療法になります。

利用法抽出方法利用するもの
ハーブティーお湯で抽出水溶性成分
アロマセラピー水蒸気蒸留・圧搾精油(揮発性成分)
フラワーレメディ太陽法・煮沸法花のエッセンス
インフューズドオイル植物油に漬け込む脂溶性成分・色素など

例えばラベンダーなら、

  • ハーブティーでは水に溶ける成分
  • 精油では香りの成分
  • フラワーレメディでは花のエッセンス
  • インフューズドオイルでは植物油に溶ける成分

というように、同じ植物でも抽出されるものが異なります。

<1-2> 精油との違い

インフューズドオイルは、アロマセラピーで使用される「精油(エッセンシャルオイル)」と混同されることがあります。

しかし、両者は製法も性質も大きく異なります。

インフューズドオイル精油
植物油に漬け込んで作る水蒸気蒸留・圧搾で抽出する
植物油そのものがベース揮発性の芳香成分を高濃度で抽出
そのままスキンケアやマッサージに利用できることが多い通常は植物油で希釈して使用する
色素や脂溶性成分も抽出される香り成分が主体

どちらも植物から作られますが、目的や利用方法は大きく異なります。

コラム:インフューズドオイルは「食べるオイル」とは違う?

「ハーブオイル」と聞くと、バジルやローズマリーをオリーブオイルに漬け込んだ料理用のオイルを思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、本記事で紹介するインフューズドオイルは、スキンケアやマッサージなど外用を目的としたものが中心です。

同じ「植物を油に漬ける」という技法でも、料理用と外用では使用する植物や製法、衛生管理の考え方が異なるため、区別して理解することが大切です。

【2】世界に受け継がれてきたインフューズドオイルの歴史

インフューズドオイルの歴史は、一つの地域から広まったものではありません。植物と植物油が手に入る土地では、それぞれの風土や暮らしに合わせて、植物を油に漬け込む知恵が自然に育まれてきました。

南太平洋ではココナッツオイルにティアレの花を漬け込んだモノイオイル、ヨーロッパではカレンデュラやセントジョーンズワートを使ったハーブオイル、日本や中国では紫根やビワの葉などを漬け込んだ薬草油が受け継がれています。

用いられる植物は地域によって異なりますが、肌を守る、乾燥を防ぐ、マッサージに使うなど、「植物の恵みを油に移して暮らしに役立てる」という発想は世界共通です。それぞれの土地の気候や文化、人々の生活に寄り添いながら、多様な「植物油療法(Herbal Infused Oils)」が受け継がれてきました。

<2-1>古代エジプト ― 香油文化の始まり

古代エジプトでは、オリーブ油やモリンガ油などに花や香木、薬草を漬け込んだ「香油(こうゆ)」が広く利用されていました。

これらの香油は、日常のスキンケアだけでなく、宗教儀式やミイラ作り、王族や神官の身だしなみにも欠かせない存在でした。

特に、ユリやハス、没薬(ミルラ)、乳香(フランキンセンス)などを用いた香油は、古代エジプトを代表する植物利用の一つとして知られています。

<2-2>地中海世界 ― ハーブオイルの発展

古代ギリシャやローマでは、薬草学の発展とともに、植物を油に浸して利用する方法も広まりました。

『薬物誌(De Materia Medica)』を著したディオスコリデスは、多くの薬用植物について記録を残しており、植物油を利用した外用法も古くから行われていたことが知られています。

オリーブオイルを基材として、カモミールやセントジョーンズワート、ローズなどを利用したハーブオイルは、肌のケアやマッサージなどに用いられてきました。

<2-3>アジア ― 和漢の植物油療法

中国や日本でも、植物を油に浸して外用に利用する文化が発展しました。

中国では、生薬を植物油や動物性脂肪と組み合わせた外用薬が数多く作られ、皮膚のケアや按摩(あんま)などに利用されてきました。

日本でも、江戸時代には紫根(ムラサキ)の根を植物油に浸した「紫根油(しこんゆ)が知られ、現在でも和漢由来のスキンケアとして受け継がれています。

コラム:精油より古い植物利用法?

現在ではアロマセラピーが広く知られていますが、水蒸気蒸留による精油の製造技術が確立したのは中世以降とされています。

一方、植物を油に漬け込む方法は、特別な設備を必要とせず、古代から世界各地で行われてきました。そのため、インフューズドオイルは精油よりも古い歴史を持つ植物利用法の一つと考えられています。

【3】世界の代表的なインフューズドオイル

インフューズドオイルには、世界共通の作り方がある一方で、利用される植物は地域の気候や文化によって大きく異なります。

ヨーロッパでは薬草やハーブ、日本や中国では生薬、南太平洋では熱帯の花々など、それぞれの土地ならではの植物が受け継がれてきました。

ここでは、現在でも親しまれている代表的なインフューズドオイルを紹介します。

<3-1>モノイオイル(タヒチ)

地域:フランス領ポリネシア(タヒチ)

モノイオイル(Monoï de Tahiti)は、タヒチを代表する伝統的なインフューズドオイルです。

ココナッツオイルに、ティアレ(タヒチアンガーデニア)の花を一定期間漬け込み、花の香りや成分をゆっくりと移して作られます。

古くから、

  • 髪の保湿
  • 肌の乾燥対策
  • マッサージ
  • 赤ちゃんのスキンケア

などに利用され、現在ではタヒチを代表する伝統産品として世界中で親しまれています。

🔽【動画】モノイオイル(Monoï de Tahiti)の製造―古来から伝わる伝統の技


<3-2>カレンデュラオイル(ヨーロッパ)

地域:ヨーロッパ

カレンデュラ(トウキンセンカ)は、ヨーロッパで古くから親しまれてきた薬草の一つです。

乾燥させた花を植物油に漬け込み、黄色い色素や脂溶性成分を抽出して作られます。

スキンケアでは、

などを目的とした外用オイルとして広く利用されています。

現在では、手作りコスメの代表的な素材としても人気があります。

🔽【動画】カレンデュラオイル(Calendula infused oil)の作り方


<3-3>カモミールオイル(ヨーロッパ)

地域:ヨーロッパ

カモミールはハーブティーで知られていますが、インフューズドオイルとしても古い歴史があります。

花を植物油に浸けることで、穏やかな香りと植物由来の成分がオイルへ移り、敏感肌向けのスキンケアやマッサージに利用されてきました。

ジャーマンカモミールとローマンカモミールでは特徴が異なり、それぞれ用途に応じて使い分けられることもあります。

🔽【動画】自家製カモミールオイル(Chamomile infused oil

<3-4>ラベンダーオイル(地中海沿岸)

地域:フランス・イタリアなど

ラベンダーは精油のイメージが強い植物ですが、花を植物油に漬け込んだインフューズドオイルも古くから作られてきました。

精油ほど香りは強くありませんが、やさしい香りを楽しめるため、

など幅広く利用されています。

ラベンダーの利用法を知ることで、「精油」と「インフューズドオイル」の違いも理解しやすくなります。

🔽【動画】ラベンダーオイル(Lavender infused oil)を作る

<3-5>セントジョーンズワートオイル(ヨーロッパ)

地域:ヨーロッパ

セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)は、ヨーロッパの伝統植物療法を代表する植物の一つです。

花を植物油に浸けると、鮮やかな赤色へ変化することが大きな特徴で、この色は植物に含まれる成分によるものです。

古くから外用オイルとして親しまれ、ヨーロッパでは現在でもハーブショップなどで見かけることができます。

🔽【動画】セントジョーンズワートオイル(St John’s Wort infused oil)の作り方

<3-6>アルニカオイル(アルプス地方)

地域:ヨーロッパ・アルプス地方

アルニカ(Arnica)は、ヨーロッパの山岳地帯に自生するキク科の植物です。

花を植物油に浸けたアルニカオイルは、スポーツ後のマッサージやボディケアなどで利用されることが多く、ヨーロッパのナチュラルケアではよく知られた存在です。

なお、アルニカは外用専用として利用される植物であり、一般的に内服は推奨されていません。

🔽【動画】自家製アルニカオイル(Arnica infused oil


<3-7>紫根油(日本・中国)

地域:中国・日本

紫根油(しこんゆ)は、ムラサキ(紫草)の根を植物油に浸して作られる和漢由来のインフューズドオイルです。

中国では古くから本草学において、紫草を外用に利用する生薬として用いてきました。その後、日本でも和漢文化の中で受け継がれ、江戸時代には医師・華岡青洲が、紫根や当帰などを配合した外用薬「紫雲膏(しうんこう)」を考案したことで広く知られるようになりました。

紫根油は鮮やかな赤紫色になることが特徴で、現在でも和漢由来のスキンケアや漢方系の外用薬に利用されています。

世界のインフューズドオイルの中でも、東アジアを代表する植物油療法の一つといえるでしょう。

🔽【動画】紫根油(しこんゆ)

世界に受け継がれる「植物を油で生かす」知恵

インフューズドオイルは、植物を植物油に漬け込み、その恵みを暮らしに取り入れる伝統的な植物利用法です。

植物そのものを利用する薬草療法や、精油を用いるアロマセラピーとは異なり、植物油を通して植物の脂溶性成分や色素を活用するという独自の特徴があります。

タヒチのモノイオイル、ヨーロッパのハーブオイル、日本や中国の紫根油など、地域によって用いられる植物は異なりますが、それぞれの風土や文化に合わせて受け継がれてきました。

植物療法にはさまざまな種類がありますが、インフューズドオイルもその一つとして、古くから人々の暮らしを支えてきた知恵といえるでしょう。

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