■食事療法とは?
食事療法とは、健康を維持したり、病気の予防や治療のために食事を工夫し、適切に取り入れる方法です。特定の食材や食事の摂取方法により、体調の改善を図るものです。食事療法は、栄養素の摂取だけでなく、食材の性質や調理法などを考慮した、医学的なアプローチを重視しています。
薬膳はその一例で、特に中国の伝統医学に基づいた食事療法です。薬膳は「薬」と「膳(食)」を組み合わせた言葉で、病気の予防や治療を目的に、食材と薬草を適切に選び、調理法を工夫することによって、体の調和を整えることを目指します。
【1】食事療法の種類・区分
◆ 栄養療法
健康を維持するために、体に必要な栄養素(ビタミンやミネラルなど)を適切に摂取することを目的とした療法です。栄養素の不足を防ぎ、身体機能を正常に保つことが重視されます。
◆ 病気予防食
食事によって生活習慣病や感染症を未然に防ぐことを目的とした療法です。特に、糖尿病・高血圧・肥満といった疾患に対する予防的アプローチが含まれます。
◆ 治療食(薬膳)
特定の病気や体質に対して、効果があるとされる食材や調理法を活用する療法です。薬膳はその代表例で、東洋医学の理論に基づき、体質や症状に合わせて食材を選びます。
◆ 療法食
疾患に応じて調整された特別な食事療法です。たとえば、腎臓病には低ナトリウム食、胃腸の不調には消化に優しい食事が用いられます。
◆ 免疫強化食
免疫力を高めることを目的とした食事療法で、抗酸化作用のある食材や腸内フローラを整える発酵食品などが中心になります。風邪や感染症の予防にも役立ちます。
▼ 分類別の食事療法(例)
【疾病別食事療法】 |
【栄養バランス型】 |
【代替療法型】 |
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【2】 食事療法の効能
- 病気予防:心疾患・糖尿病・高血圧・肥満など、生活習慣病のリスクを軽減
- 健康維持(免疫力の向上):特定の食材によって免疫システムが活性化し、感染症や病気への抵抗力が高まる
- 健康維持(消化機能の改善):消化器系の働きを整え、便通改善や胃腸の健康維持に貢献
- 治療補助:糖尿病や高血圧などの疾患に対して、医療と連携して治療効果を高める
- 精神的健康:ストレス軽減、睡眠改善
- 体調管理: 日常の食事で体内バランスを整え、疲労感やストレスを軽減
- 慢性疾患の改善:関節炎・アレルギー症状・内分泌系の不調などにも効果があるとされ、長期的な健康管理に有用
【3】食事療法の歴史と変遷
食事療法は古代から存在し、特に中国医学やギリシャ医学で発展してきました。日本では明治時代に西洋医学とともに栄養学が導入され、病院給食制度の確立とともに食事療法が発展しました。
≪3-1≫ 中医学における食事療法
**中国伝統医学(中医学)**は、食事療法の基盤を築いた重要な医学体系の一つです。中医学では、各食材に以下のような特徴があるとされ、体質や体調に応じた食材選びが行われます。
- 性質:冷・熱などの体を冷やす/温める性質
- 味:甘・苦・酸・辛・鹹(塩)などの五味
これらは、体内の「陰陽」や「気血」のバランスを整える目的で用いられます。
中国では、紀元前から薬膳の概念が存在し、古代の医学書『黄帝内経』『神農本草経』にも食事の重要性が記されています。
≪3-2≫ ギリシャ医学における食事療法
古代ギリシャでは、医学の父**ヒポクラテス(紀元前460–370年頃)**が「食べ物は薬である」と述べ、食事が健康に与える影響を重視しました。彼は自然の食材を用いて体調を整えることが、病気の治療に有効であると考えました。
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四体液説:ギリシャ医学では、人体を構成する4つの体液(血液・粘液・黄色胆汁・黒胆汁)のバランスが健康維持の鍵とされ、その調整に食事が活用されました。
≪3-3≫ 日本における食事療法
- 日本でも、江戸時代を中心に養生の考え方が広まり、食事療法が生活に根付いていきました。養生とは、日々の食生活や生活習慣を工夫し、体調を整えるという思想です。
日本食は、次のような特徴で健康的とされてきました。
- 旬の食材の活用
- 体に優しい調理法(蒸す・煮る・発酵)
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発酵食品(味噌、納豆、醤油)や海藻類の多用
これらの要素が、伝統的な日本の食事療法を支えてきました。
【4】 食事療法が盛んな国々
以下に、食事療法が特に重視・発展している国々の特徴をまとめます。
● 中国
中国では、薬膳が中医学と深く結びつき、食材の性質や味による体調調整が重視されています。薬膳は中医学の一部として体系化され、現代では病院や診療所でも治療の一環として活用されています。専門家による指導のもと、多くの国民が日常的に実践しています。
● インド
インドでは、アーユルヴェーダに基づく食事療法が根付いています。これは、ドーシャ(体質)に応じた食事の調整を基本とし、医療現場でも広く活用されています。
インドには、アーユルヴェーダを専門的に学ぶ施設や病院も存在し、医師が治療の一環として食事療法を指導しています。
● 日本
日本では、和食が健康に良いとされ、長寿にも寄与してきました。発酵食品や季節感を活かした食事法が食事療法の中心です。
- 病院やクリニックでは「和食」に基づく食事療法が導入され、病気予防や治療に活用
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病院給食制度や栄養管理の体制が整備されており、栄養療法の研究も進んでいます
● ギリシャ
ギリシャでは、地中海式食事法が健康維持に効果的とされ、古代の食事理論が今も影響を与えています。
- 主な特徴:オリーブオイル、魚、野菜、果物の多用
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心臓病や生活習慣病の予防にも効果があるとされ、現代の健康法としても注目されています
● フランス
フランスは、古代ギリシャ・ローマの食事理論の影響を受け、地中海式の食文化を継承しています。
- 19~20世紀にかけて、食事と病気の関係が研究され、栄養学が発展
- 食材の質と調理法を重視し、バランスの良い食事が健康の鍵とされています
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病院では肥満や心臓病予防のための食事療法が実践され、栄養士による食事指導も一般的
また、フランス政府も公共の健康促進活動として食事療法を奨励しており、地元食材や調理文化を活かした地中海式食事法が広く受け入れられています。
● アメリカ
アメリカでは、20世紀初頭の栄養学の確立が食事療法の発展のきっかけとなりました。栄養素が発見される中で、食事が健康や病気にどのように影響を与えるかが科学的に研究されたのです。
- 1920〜1950年代にビタミン・ミネラルの重要性が認識され、科学的な食事療法が普及
- 企業や病院での健康プログラムの一環としても導入され、個人レベルでも広く実践
- ケトジェニック、ダッシュダイエットなど多様な食事法が人気
- 糖尿病・肥満・心臓病などの予防や治療に、低糖質・低脂肪・高繊維の食事が推奨
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最近では、抗炎症食や植物ベースの食事(ビーガン・ベジタリアン)にも注目が集まっています
● ドイツ
ドイツでは、バイオロジカル・メディスン(生物医学)やホメオパシーと結びついた食事療法が根付いています。
- 18~19世紀に自然療法の一環として注目され、特定の食品が健康や病気の予防に有効であるという理論が広まる
- 現代でも、クレンズダイエット(浄化食)、リバウンド防止ダイエット、栄養療法などが医療で活用
- 病院やクリニックでは、慢性疾患や消化器系・アレルギー疾患に対する治療として実践
- 生薬やハーブとの併用も多く、食事療法と植物療法が統合されて用いられています
● 韓国
韓国の食事療法は、**韓医学(韓国伝統医学)**に基づき、薬草と食材を組み合わせた療法が特徴です。
- 発酵食品(キムチ、テンジャン、コチュジャンなど)や韓国薬膳が広く用いられる
- 医療現場でも、漢方薬と食事療法の併用が一般的
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病院では、体調改善のための健康食が提供されることもあり、栄養バランスに優れた伝統食が高く評価されています