スープ・鍋・煮込みで内側から温める冷え対策
冷え体質の背景には、
体質・生活習慣・年齢・気候など、さまざまな要因があります。
東洋医学では「冷え」は単なる寒さではなく、
気血の巡りが悪い・臓腑の働きが低下している・エネルギー不足などのサインとして捉えられてきました。
寒さの厳しい地域で生まれた鍋やスープ、シチューには、
長い歴史の中で育まれてきた
「身体を守るための料理」があります。
本記事では、そうした世界のあったか料理を
冷え体質別の食養生という視点から紹介します。
【第1章】冷え体質チェック
あなたの冷えはどのタイプ?
YES / NOで直感的に答えてください。
A|腸・消化型の冷え
- 冷たい飲み物でお腹を壊しやすい
- 便秘や下痢を繰り返しやすい
- 食後にお腹が冷える感じがする
👉 YESが2つ以上
→ 腸を温めるタイプ
B|エネルギー不足型の冷え(気虚)
- 冬でなくても手足が冷たい
- 疲れやすく、声が小さくなりがち
- 食べてもすぐお腹が空く or 逆に食欲がない
👉 YESが2つ以上
→ 体力・エネルギー補給タイプ
C|巡り不足型の冷え(血の滞り)
- 肩こり・首こりが慢性化している
- 生理痛・頭痛が起きやすい
- 温めると楽になるが、すぐ戻る
👉 YESが2つ以上
→ 血行促進タイプ
D|深部冷え型(腎の冷え)
- 下半身が特に冷える
- 年齢とともに冷えが悪化している
- 朝がつらく、回復に時間がかかる
👉 YESが2つ以上
→ 深部から温めるタイプ
✍ 【冷え体質タイプ別】養生まとめ表
複数タイプに当てはまることも珍しくありません。
| 冷えタイプ | 東洋医学的背景 | 主な不調 | 食養生の軸 | 向く料理 |
|---|---|---|---|---|
| 腸・消化型 | 脾胃の冷え・弱り | 下痢・便秘・腹部冷感 | 腸を温め、消化を助ける | 穀物入りスープ、発酵スープ |
| エネルギー不足型(気虚) | 気血不足 | 疲労感、手足の冷え | 滋養・エネルギー補給 | 骨付き肉スープ、脂のある煮込み |
| 巡り不足型(血滞) | 血行不良 | 肩こり、頭痛、生理痛 | 巡りを促進 | ナッツ・香味野菜・酸味 |
| 深部冷え型(腎虚) | 腎陽不足 | 下半身冷え、回復力低下 | 深部から温める | 羊肉・生姜・滋養スープ |
第2章 鍋・スープ・シチューの違いと食養生としての役割
鍋|温め続ける料理
- 加熱しながら食べる料理
- 冷えが強い人向け
- 冬・疲労時に◎
スープ|内臓を休ませる料理
- 液体を主役として飲む料理
- 消化が良い
- 回復期・虚弱体質向け
- 毎日の養生に
シチュー(煮込み)|滋養を蓄える料理
- 栄養が濃い(具材と栄養を濃縮した料理)
- 脂質・穀類が多く、エネルギー補給向き
- 冷え+疲労+消耗向け
- 寒冷地の主食的存在
【3】冷え体質別・世界のあったかレシピ集
──スープ・鍋・煮込みで内側から温める
<3-1> 腸を温めたい人に(北欧・東欧)
🌿 カレリアン・スープ(フィンランド東部)
👉 腸を温めるスープ
◎【養生ポイント】
腸を温め、消化を助ける
◎【向く人】
・お腹の冷えを感じやすい
・冷たい飲食で不調が出やすい
◎【控えたい人】
・乳製品で不調が出やすい場合は量を調整
【材料(2杯分)】
・ライ麦(押し麦で代用可)…大さじ2
・じゃがいも …1個
・にんじん …1/2本
・玉ねぎ …1/4個
・牛乳または豆乳 …200ml
・水 …200ml
・塩 …少々
【作り方】
1. 根菜を小さく切り、水と麦で柔らかく煮る
2. 牛乳(豆乳)を加えて温め、塩で調える
🔽【動画】Finnish Karelian Stew Recipe
🌿 ルーマニア山岳地帯のザワークラウトと豚肉の煮込み
(現地では Varză acră cu porc :ヴァルザ・アクラ・ク・ポルクと呼ばれる)
👉 発酵×温熱
【材料】
・ザワークラウト(なければ酸味のある漬物)…50g
・豚肉または鶏肉 …80g
・玉ねぎ …1/4個
・水 …400ml
・黒胡椒 …少々
【作り方】
1. 肉と玉ねぎを煮る
2. ザワークラウトを加えて10分温める
3. 酸味と塩気で調整
🔽【動画】Ciorba de varza acra cu afumatura – reteta ardeleneasca sau ungureasca de varza murata
<3-2>骨・エネルギー不足を感じる人に(中央アジア)
🌿 シュルパ(Shurpa)
👉 骨から滋養を取るスープ
◎【養生ポイント】
長時間煮込んだ肉と骨のエキスで、
気血を補い、身体の芯から温める。
消耗しやすい体質・慢性的な冷えに向く。
◎【向く人】
・疲れやすく、冷えると回復に時間がかかる
・体力不足・虚弱体質を感じる
・食べても力がつかない感覚がある
◎【控えたい人】
・脂っこいものが苦手な人は肉の量を控えめに
・消化力が弱い場合は少量から
【材料】
・羊肉(なければ牛すね)…100g
・大根またはかぶ …適量
・にんじん …1/3本
・水 …600ml
・塩 …少々
【作り方】
1. 肉と水を弱火で30分以上煮る
2. 野菜を加え、柔らかくなるまで煮る
3. 塩のみで味付け
🌿モンゴル風蒸し餃子スープ
モンゴルの伝統料理「Buuz(ボーズ)」を、
寒冷地の家庭でスープ仕立てにした養生アレンジ。
肉の脂と温かい蒸気で、エネルギーを補う。
👉 脂と蒸気の養生
◎【養生ポイント】
脂質と温かい蒸気でエネルギーを補給し、
冷えで消耗した身体を立て直す。
「寒さに耐えるための料理」。
◎【向く人】
・寒がりで手足が冷えやすい
・体重が落ちやすい、消耗感が強い
・冬に特に不調が出やすい
◎【控えたい人】
・胃もたれしやすい場合は個数を少なめに
・脂質が合わない人はスープ中心で
【材料】
・餃子(市販可)…4〜6個
・鶏ガラスープ …400ml
・白胡椒 …少々
【作り方】
1. スープを温め、餃子を入れて煮る
2. 仕上げに白胡椒
🔽【動画】GIANT-SIZED BUUZ (Dumplings)
<3-3>脾を養いたい人に(アルプス地方)
🌿 ゲルステンスープ(スイス・グラウビュンデン州の郷土料理)
現地では Bündner Gerstensuppe と呼ばれ、
大麦と根菜、肉を煮込んだアルプス地方の冬の滋養スープ。
👉 脾を養う冬のスープ
◎【養生ポイント】
大麦と根菜で「消化・吸収の土台」を整える。
冷えからくる胃腸虚弱をやさしく補う。
◎【向く人】
・食後に眠くなりやすい
・胃腸が冷えやすく、疲れが溜まりやすい
・慢性的なだるさを感じる
◎【控えたい人】
・グルテンや麦が合わない場合は量を調整
・ベーコンは省略しても可
【材料】
・大麦(押し麦)…大さじ2
・玉ねぎ …1/4個
・にんじん …1/3本
・ベーコン …少量
・水 …500ml
・塩 …少々
【作り方】
1. 材料をすべて入れて柔らかくなるまで煮る
2. 塩で調える
🔽【動画】Bündner Gerstensuppeと呼ばれるスイスの大麦スープの作り方
<3-4> 腎を温めたい人に(中国寒冷地)
🌿 羊肉湯
👉 腎を温めるスープ
◎【養生ポイント】
腎を補い、深部から温める伝統的な養生食。
年齢とともに増す冷え・回復力低下に対応。
◎【向く人】
・下半身の冷えが強い
・朝が弱く、疲れが抜けにくい
・加齢とともに冷えが悪化している
◎【控えたい人】
・のぼせやすい人は生姜を控えめに
・体に熱がこもりやすい時期は量を少なめに
【材料】
・羊肉(または牛肉)…100g
・生姜 …1片
・クコの実 …小さじ1(省略可)
・水 …600ml
・塩 …少々
【作り方】
1. 材料を弱火で30〜40分煮る
2. 塩で調える
<3-5>巡りを良くしたい人に(コーカサス地方)
🌿ハルチョー(ジョージアのくるみ煮込み)
現地では Kharcho(ხარჩო) と呼ばれる、
くるみと香味野菜、酸味を効かせた肉の煮込み料理。
👉 血を巡らせる鍋
◎【養生ポイント】
くるみ・香味野菜・酸味で血行を促進。
「温めてもすぐ冷える」タイプの冷えに。
◎【向く人】
・肩こり・首こりが慢性化している
・温めても冷えが戻りやすい
・ストレスで冷えを感じやすい
◎【控えたい人】
・胃が弱い場合はにんにくを控えめに
・酸味が苦手な人はトマト量を調整
【材料】
・鶏肉または牛肉 …100g
・くるみ(刻む)…大さじ1
・トマト(缶可)…100g
・にんにく …少量
・水 …400ml
【作り方】
1. 肉を煮てからトマト・くるみを加える
2. 軽く煮込み、にんにくを少量加える
※ハルチョには、スープ状の一般的なタイプと、
クルミを多用した濃厚な「メグレル風」があります。
本記事では、体を温め巡りを促すスープタイプを紹介しています。
✍ 【冷えタイプ × 世界のあったか料理】 早見表
※ 複数タイプに当てはまる場合は、主訴が強いものを優先。
| 冷えタイプ | 料理名 | 地域 | 養生キーワード |
|---|---|---|---|
| 腸・消化型 | カレリアン・スープ | フィンランド | 穀物・腸温・消化 |
| 〃 | ルーマニア風ザワークラウト煮 | ルーマニア山岳 | 発酵・酸味・温熱 |
| エネルギー不足型 | シュルパ | 中央アジア | 骨・滋養・長時間煮 |
| 〃 | モンゴル風蒸し餃子スープ | モンゴル系 | 脂・蒸気・保温 |
| 脾虚タイプ | ゲルステンスープ | スイス | 大麦・根菜・脾 |
| 深部冷え型 | 羊肉湯 | 中国寒冷地 | 腎・温補 |
| 巡り不足型 | ハルチョー | ジョージア | くるみ・血行 |
冷え体質は、一人ひとり違います。
大切なのは「とにかく温める」ことではなく、
自分の体質に合った温め方を選ぶこと。
世界のあったか料理は、
その土地の気候と人々の体を守ってきた
実践的な食養生法です。
今日の一杯が、
明日の体調を少し楽にしてくれるかもしれません。
まずは、自分の冷えタイプに合う料理から取り入れてみてください。
