7つの健康用語(未病・ヘルス・ウェルビーイング・ウェルネス・フレイル・リカバリー・ヒーリング)

健康

進化する健康のパレット:7つのキーワードが描く健康史と3つの健康概念の真実

過去と未来をつなぐ健康の軌跡―未病からヒーリングまで、あなたの健康理解を根底から変える!

【1】健康用語(各概念の違いと特徴)

近年、私たちの健康観は単なる「病気がない状態」を超え、体と心、さらにはライフスタイル全体に目を向ける多面的なものへと進化しています。本記事では、江戸時代から現代にかけて確立されてきた7つの健康用語(未病・ヘルス・ウェルビーイング・ウェルネス・フレイル・リカバリー・ヒーリング)を軸に、その進化の軌跡をたどります。さらに、現代の健康において特に注目される「ヘルス」「ウェルビーイング」「ウェルネス」の3つの概念の相違点を詳しく解説し、医療現場や日常生活、企業の健康戦略に至るまで多彩な視点から健康とは何かを見つめ直します。これからの時代、健康のあり方を根本から理解し、実践に生かすための新たな知見をお届けする内容となっています。

(1) 未病

  • 未病とは、病気と診断されるほどではないが、完全に健康とも言えない状態を指します。
  • 東洋医学に由来し、体質や「気・血・水」、生活習慣のバランスに着目。
  • 予防と早期介入を目的としており、江戸時代からの日本独自の伝統的な考え方が背景にあります。
  • 現在は、健康診断や予防医療の文脈で広く使用されています。

《1-1》海外の類似概念

  • 中国【亜健康:Sub-health】: 病気の診断はないものの、慢性疲労、頭痛、不眠、イライラなどの不定愁訴がある状態。
  • 欧米【亜臨床状態Subclinical condition】: 臨床的には病気と診断されないが、検査値にわずかな異常が認められる状態(例えば、サブクリニカル甲状腺機能低下症など)。 ※「未病」という包括的な概念は存在せず、主に「サブクリニカル」や「リスク状態」として捉えられる。
  • 機能性医学:Functional Medicine】/Optimal Health 症状がなくても、理想的な健康状態ではないという前提のもと、栄養管理、腸内環境、ストレス管理などを重視し、体全体のバランスを追求するアプローチ。
  • 予防医学:Preventive Health】/Risk Reduction 健康リスクが高まっている段階で介入を行い、病気への進行を防ぐ考え方。米国CDCなどが注目し、健康格差や生活習慣の改善にも焦点を当てています。

(2)ヘルス(Health)

  • 定義・特徴 医学的な観点から「病気がない」状態を示します。身体的、精神的、社会的に病気や障害がなく、正常に機能している状態が対象となります。医療機関での健康診断や検査の結果など、客観的な基準で評価されるため、基本的な健康状態のバロメーターとされます。
  • 起源 1946年のWHOの定義に基づく。
  • 利用分野 一般的な健康診断や医療分野で広く使用されています。

(3) ウェルネス(Wellness)

  • 定義・特徴 心身の健康だけでなく、自己実現やライフスタイルの質の向上を重視する積極的な健康観。栄養管理、適度な運動、ストレス管理といった具体的な生活習慣の改善や、心・体のバランスを自己主体的に追求するプロセスが重視されます。予防、運動、食事、瞑想などを含む。
  • 起源 1961年にアメリカのハルバート・ダン医師により提唱。
  • 利用分野 現代の健康産業やフィットネスプログラム、企業の健康経営の分野でも広く取り入れられています。

《3-1》最新のトレンド

ウェルネスのトレンドは、業界の専門家、企業、研究機関、国際的な会議などによって形成されます。特に、グローバル・ウェルネス・サミット(GWS)のような国際会議では、世界中のウェルネス業界のリーダーや専門家が集まり、最新のトレンドを議論し、発表しています。

📌2025年:ウェルネス業界を形作る主要トレンド

  1. アナログウェルネス デジタル化が進む中で、テクノロジーから距離を置き、シンプルな生活を求める動きが強まる。デバイスフリーの体験や「アナログホーム」などが注目。
  2. 進化するサウナ 世界的なサウナブームが続いており、サウナが単なるリラクゼーションの場ではなく、文化的・社交的な空間へと進化。日本でも没入型のサウナアートインスタレーションが登場。
  3. スリープツーリズム 良質な睡眠を求めて旅をする「スリープツーリズム」が注目。特に日本では、快眠をサポートする宿泊プランが増加。
  4. サプリメントのジレンマ 高級サプリメント市場が拡大する一方で、科学的根拠のある製品への需要が高まる。個別処方やDNAに基づくサプリメント、AIによる診断などのイノベーションが進んでいます。
  5. メンタルウェルネスの強化 ストレス管理やメンタルヘルスの重要性が増し、瞑想やマインドフルネス、音楽療法などがより広く取り入れられています。

(4)ヒーリング(Healing)

  • 定義・特徴 心身の癒しや回復を意味し、精神的な安らぎやリラクゼーションを重視する概念です。
  • 利用分野 ホリスティックなアプローチや代替医療、スピリチュアルな分野で取り入れられることが多いです。

(5)リカバリー(Recovery)

  • 定義・特徴 病気や怪我からの回復過程を意味し、リハビリテーションや再生医療の文脈で使用されます。病後の単なる治癒ではなく、社会的役割や人生の再構築まで含む。
  • 起源 19世紀から20世紀初頭にかけての医学の発展とともに用いられるようになりました。
  • 利用分野 医療やリハビリテーション分野全般、さらに精神医療の領域でも広く認識されています。

(6)ウェルビーイング(Well-being)

  • 定義・特徴 単なる「病気がない」状態を超え、心身ともに充実し、幸福感や生活の質(Quality of Life)がしっかりと確保されている状態を意味します。どれだけ生活に満足し、精神的にも社会的にも良好な関係を築いているかという主観的な側面も重視されます。
  • 起源 1946年(WHO憲章)の定義に基づく。
  • 利用分野 政策評価や福祉、企業の福利厚生など、幅広い分野でその指標として使われています。

7. フレイル(Frailty)

  • 定義・特徴 高齢者における身体的、精神的、社会的な虚弱状態を指し、介護が必要な状態に至る前段階とされます。
  • 起源 1980年代に欧米で提唱され、日本では2014年頃から使用され始めました。
  • 利用分野 高齢者の健康管理や介護予防の文脈で用いられています。

📌 健康用語の進化年表

年代用語背景・内容
紀元前未病(中国伝統医学)「病気になる前の状態」への介入。黄帝内経に記述。予防医学の原点。
19世紀ヘルス(Health)病気でない状態=健康という視点が中心。医学的健康観が主流。
1948年健康(Health)〈WHO定義〉「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」
→ 医療モデルから全人的健康観へ。
1950–60年代ウェルネス(Wellness)アメリカで登場。健康を「積極的に創り出すもの」と捉える新しい概念。
1970–80年代ヒーリング(Healing)心身の自然治癒、精神面やスピリチュアル面での癒し。オルタナティブ医療と連携し始める。
1980年代リカバリー(Recovery)精神疾患・依存症からの「回復」概念。単なる治癒でなく「自己再構築」の過程を含む。
2000年代ウェルビーイング(Well-being)幸福・満足・意味のある生活。
OECDや世界各国が政策目標に採用。
2020年代ソーシャル・ウェルビーイング / プラネタリー・ヘルス個人の健康を社会・地球と結びつける概念が拡大。SDGsとも連動。

各概念は、単に病気の有無だけでなく、全体的なバランスや回復、自己実現といった多角的な視点から健康を考えるための枠組みとして理解されます。たとえば、「未病」の考え方は予防医療に直結し、日常生活の中でどのようにバランスを取るかに注目します。また、ウェルネスやウェルビーイングは、現代社会におけるライフスタイルや精神面の充実との関連も見出され、教育、福祉、企業活動などさまざまな分野で取り入れられています。

さらに、最近の高齢化社会や医療の多様化に伴い、フレイルやリカバリーといった高齢者医療、リハビリテーションの概念も重要性を増しています。これらの違いを理解することで、個々の健康管理や政策、企業活動における健康戦略への応用がより一層深まります。

【2】 ヘルス/ウェルネス/ウェルビーイング の違い

用語意味の範囲主体重視する要素
ヘルス病気でない状態医療制度・保健身体・疾患の有無
ウェルネス積極的に健康を追求するライフスタイル個人自己責任・生活の質・活動性
ウェルビーイング幸福で満たされた人生全体の状態社会全体心理的充足、社会的関係、生活満足度

📌 政策・医療の方向性における意義と使い分け

視点ヘルスウェルネスウェルビーイング
医療制度疾病中心:治療、介入(例:診断、薬)予防重視:健康教育、フィットネス支援社会的処方、地域づくり、幸福度政策(例:孤独対策)
保健行政●検診や健康診断
●保険適用範囲の設計
●禁煙支援
●栄養教育
●運動促進
●地域共生社会づくり
●子育て・雇用政策
企業の健康経営●健康診断
●メンタルヘルス対策
●ヨガやウェルネス休暇
●食生活支援
●働きがい
●ワークライフバランス
●ESG評価
国際政策WHO健康の定義(1946)アメリカ健康産業(Wellness Market)OECD・UNがWell-beingを指標化(例:幸福度、社会的つながり)

📌違いのまとめ

◎ヘルス

医学的・客観的な健康状態(病気がない状態)を評価する。

ウェルネス

  • 病気にならないよう自分で整える → 予防+自己責任型
  • 健康の積極的な追求と自己実現、ライフスタイルの質向上に焦点を当て、日常の具体的な健康活動により高いレベルの健康を目指す。

ウェルビーイング

  • 健康かつ「生きがい」や「社会的充足」がある → 社会包摂・価値共創型
  • 疾病の有無を超え、主観的な幸福感や生活の質、心身の充実度を含む総合的な健康状態。